この本は、米国と中国の巨大プラットフォームであるBig Nine(グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト、IBM、アップル、バイドゥ、アリババ、テンセント)と、AI(人工知能)のあり方についての未来予想図ともいえる本です。AIの将来について知りたいと思っている時に、図書館で見つけました。
Big Nine 巨大ハイテク企業とAIが支配する人類の未来
AIって?
この本では、AIの生い立ちから今までの歴史を振り返っています。初期のAIは、プログラムを覚えこませ、人間の処理速度をはるかに超える膨大なデータをインプットする方式でしたが、その次のステップとして、自分で考えるAIを開発する方向にシフトしていきました。最終的には、AIが自分自身でプログラミングをして進化していくようです。AIと言ってよく想像する人型ロボットだけではなく、この本を読むと様々な形態があることがわかります。
中国共産党の脅威
一見関係なさそうですが、この本では、AIに関することだけではなく、中国共産党についても深くて正確な分析がなされています。中国共産党がAIを使って、覇権を握ろうとしている恐ろしい計画について述べられていますが、著者のスタンスは極めて中立的で、習近平国家主席の国家AI計画、情報監視社会、市民の点数評価の功罪を誇張することなく説明します。
それにしても、中国がAIの開発に心血を注ぐ様や、現代版の帝国拡張主義については、嘆息するしかありません。後に述べる未来予想図でも、中国政府の悪意あるハッカーが米国にAIによる戦争を仕掛けることが想定されていますが、中国ならやりかねないという気持ちです。
3つの未来予想図
この本では、AIに関する3つの未来予想図を描いています。楽観的なシナリオ、現実的なシナリオ、悲観的なシナリオの三つです。一つ目の楽観的なシナリオでは、Big Nineが共同してAIが人類のために有効活用されている未来です。二つ目の現実的なシナリオは、AIがそんなにいいことばかりをもたらすわけでもない未来、三つ目の悲観的なシナリオは、Big Nineも相互協力的にはならず、知的労働者が職を失い、AIによる致死的な欠陥が顕在化し、最終的には中国に世界が支配されるというものです。ちょっと極端だとは思いますが、AIの負の未来を見たようで、暗い気分になりました。
悲劇的な未来にならないために
著者は、特にG-マフィア(米国のグーグル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック、IBM、アップルを総称する著者の造語)に、協働してグローバルな規範を作ること、多様性を今よりもっと重視すること、AIの倫理をきちんと学ぶことの重要性を繰り返し説いています。多様性をなぜ重視するのかと言うと、結局AIは「正しい」判断をするのではなく、最適化をするに過ぎないので、AIには開発者の固定された価値観が色濃く反映されるからだと言います。マイノリティーが排除されないAIの開発が著者の最も主張したい内容だと感じました。
また、我々ユーザーに対しても、情報は個人のものだという原点に戻って、我々の個人データ記録がBig Nineの手に渡ることに、もっと敏感になるべきだと言っています。私も、GAFAの製品やプラットフォームをよく利用します。確かにとても便利で生活スタイルを大きく改善してくれますが、その隠れた影響を見定めるべきだと思います。
衝撃的な内容でしたが、よく分析・検討された本で、翻訳もGoodでした。