読書感想記 「NETFLIX コンテンツ帝国の野望」

沿って | 2020年6月28日

図書館で借りてきました「NETFLIX コンテンツ帝国の野望」。昨日のブログ記事から引き続き、動画配信サービスのお話です。

実は私自身は、映画やドラマにはさほど興味はないのですが、世界を席巻するNetflixがどのように現在の地位を築いたのか、そのビジネスモデルはどのようなものなのかということ自体には興味があり、それを知りたくてこの本に手を伸ばしました。Netflixは、CMを見たり、名前だけは知っていて「すごい拡大してるなぁ」というレベルで何も知りませんでした。でも、著者の取材力と、翻訳の読みやすさで、一気に読み切ってしまいました。

プロローグで知ったのですが、Netflixの目下最大の敵は、ウォルト・ディズニーのようです。ミッキーマウスに代表される伝統的なコンテンツの他、スター・ウォーズ、ピクサーといった最新のコンテンツを引っさげた同社は、Hulu(日本では日テレ系として独立)を子会社として擁しており、Netflixはそれらの競合企業に対抗するために自社コンテンツにも力を入れているとのことです。既存のコンテンツ買取だけでなく、コンテンツの創造(しかも非常な高評価)まで行っているのだから、まさに「コンテンツ帝国」と言えるでしょう。

この本の見どころ

最も興味深かったのは、日本語版特別寄稿のプロローグ(2012年〜2018年のNetflixの動向)と、Netflixがブロックバスター(かつて米国を本拠地に置いていたビデオ・DVDレンタルチェーンを運営した巨大企業。倒産)との闘いを克明に記録した中盤でした。

この本の中盤では、ブロックバスターとの闘いについて記されています。レンタルビデオの世界では巨人であるブロックバスターは、当初Netflixが足元にも及ばない業界の雄の存在でしたが、アルゴリズムやロジスティクスを最大限効率化したNetflixの存在が無視できなくなっていきます。そんなブロックバスターも、既存の強みを利用したレンタル・システムを構築し、あと一歩のところまでNetflixを追い詰めます。

しかしながら、ブロックバスターが有能な経営者と、その右腕がいたにもかかわらず、投資家とのいざこざにより、それらの有能な人材が去っていきました。その後、市場の趨勢を読むことができない無能な経営者にバトンタッチしてから、ブロックバスターは転げ落ちるように業績を悪化させ、倒産してしまいました。

株主(投資家)の利益を最大限尊重するのが株式会社なのでしょうが、事情を知らない第三者が口をはさむと、企業の命運をも左右する事態に陥るのです。企業が何を最優先すべきなのか(株主か、顧客か、企業そのものか)いろいろ考えさせられました。

中年だって起業できるんだ!

Netflixは、もともとは家族経営的な、DVDの宅配サービスから始まった企業でした。特筆すべきなのは、GAFAと異なり、若い、リスクを恐れない世代ではなく、前企業で経験も積んだどちらかといえば、シリコンバレーでは特に年配の創業者2人が立ち上げた企業だということです。著者の言葉を借りれば「中年サラリーマンに企業の夢を与える」。

そのため、集まってきた社員も、若いMBA上がりではなく、それぞれの企業で役職についた経験を持ち、極めて高い専門性を有していたようです。IT事業においては、若さが非常に重要な武器になるように思われがちですが、必ずしもそうではなく、経験に裏打ちされた実績は裏切らないのだと思いました。Netflixは、各社員が各々の持ち場で間違わない舵取りができていました。その組織の強みの源泉は、専門性を持った多様性にあるのだと思いました。

赤字も恐れない企業文化

Netflixも、ブロックバスターも、短期的な赤字は恐れずに、長期的なシェア拡大、利益の追求を求めており、株主も長期的なビジョンの提供を是としています(一部そうでないところもありましたが)。リスクをとることができる経営は、米国の強みだと思いました。対して、日本だとそこまでいっているのだろうか…

ちょっと題名と内容の焦点が違うような気もしましたが、経営書としても、動画配信サービス業界の現状を知る意味でも、良い本でした。