読書感想記「リブラの正体 GAFAは通貨を支配するのか?」

沿って | 2020年7月4日

Facebookの仮想通貨?

昨年の夏ごろ、Facebookが仮想通貨「リブラ」の発行を計画して、米国議会の公聴会にザッカーバーグCEOも呼び出されたというニュースがあったことを思い出しました。その頃は、あまり気にも留めていなかったのですが、GAFAの凄まじさに日々驚かされている私です。Facebookが考えるリブラとはどのようなものだったんだろうということが気になって、図書館から借りてきました。

「リブラの正体 GAFAは通貨を支配するのか?」

リブラの正体とは

リブラがこれまでの仮想通貨と大きく異なるのは、米ドルやユーロ、日本円などの実際の通貨群(バスケットという)を基軸としており、実体のない投機的なバーチャル通貨ではないことです。

特に、開発途上国などでは、unbankedという、私たちが当たり前のように利用している銀行などの金融サービスも利用できない人々が数多くいるそうです。リブラは、Facebookのネットワークを活用して、そうしたunbankedたちに、安いコストで、幅広く決済手段を提供しようという理想主義的な思想があります。我々だって国外送金するとき、ものすごい手数料を取られますよね。

しかしながら、一民間企業、それも世界的に影響のあるFacebookが金融に参入して仮想通貨を発行することは、各国政府やIMFなどから危険視され、何重にも規制をかけようと待ち構えています。

この本では、リブラとは何かという基礎的知識や、その仕組み、マクロ経済的な観点からの影響分析、規制当局からの批判などについて述べられています。ただ、法的観点を解釈した章だけは、「現状では何もわからない」(事実なのでしょうが)ばかりで、読んだ時間を損しました(笑)。

私は、仮想通貨や暗号資産といったものには懐疑的です。セキュリティの問題で資産がパーになったりしないか(!)という心配を未だに持っていますし、国家権力の介在しない、保証のないものをどれだけ信じていいのかと思います。

それでも、この本では、Facebookが、各国の規制当局の指示にはとことん従うこと、先ほども書いたように、そもそも現実の通貨を基軸にしており、投機的な値の上げ下げが想定しにくいことが解説されています。

Facebookは、当然生じた利子収入を儲けに入れるのだろうけれども、強大な資本と膨大なプラットフォームを背景に、unbankedといわれる銀行サービスにアクセスできない人々にも手を差しのべようという姿勢は評価されるべきと思いました。

中国の脅威

特にFacebookは、中国の脅威について暗示しています。曰く、「もし米国がデジタル通貨を使った新しい決済の技術革新を主導しないのであれば、他の誰かがやることになると信じている」と。

国家によるデジタル人民元の主導や、アリペイなどの電子決済が進歩している中国は、いずれ通貨の覇権も握ろうとするでしょう。私は、根本的なところで相いれない価値観を持つ中国がデジタル通貨を進めるぐらいなら、リブラの方がよほどましだと思いました。

現在、リブラというグローバル通貨の計画は予定通りに進んではいないようです。今後どのように事態が推移するかわかりませんが、読んで良かった本でした。