読書感想記「「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア」

沿って | 2020年7月19日

図書館の書棚にあった本で、表題に惹かれて借りた本でした。

「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア

ソーシャルメディアが兵器になる恐ろしさ

TwitterやFacebookは、人と人とを友好的に結びつけるように見えるソーシャルメディアですが、現代では必ずしも平和的に使われるだけではありません。戦争への勧誘、怒りの増幅、残虐な場面の拡散といった用途に使われ、それが現代の戦争を大きく左右する情報の支配に至ります。この本では、そのようなソーシャルメディアが兵器として利用されていく実態を克明に描いています。事例も数多く、ISIS(イラクとシリアのイスラム国)やロシアのウクライナ侵攻、米国大統領選挙など、興味深い事例のオンパレードでした。

ソーシャルメディアは、ひとりひとりの個人の情報発信は小さなものです。それでも、つぶやきが大きく拡散し、ひいては情報を支配するようになれば、政治や戦争に大きな影響をこれほどまでに与えていくものかと戦慄としました。

フェイクニュースは見破れない

また、この本ではフェイクニュースの巧妙化に警鐘を鳴らしています。現代では、ソーシャルメディアから得る情報量は格段に増加しています。一方で、人間ではないインターネットボット等を利用したツイートは実に巧妙になり、何が虚偽で何が正しい情報なのか、フェイクニュースを見破ることは極めて困難になっています。しかも、その影響は計り知れないもので、現代社会の特徴の一つである内向き志向、社会の分断は、インターネット、とりわけソーシャルメディアによるものなのかと思いました。

それにしても、この本を読むと、トランプ氏がクリントン候補を破って1回目の大統領選挙に勝利したことは番狂わせでもなんでもなく、ソーシャルメディアを最大限有効活用したが故の必然だったのだと思ってしまいます。それほどに現代の政治においてソーシャルメディア、すなわち膨大な情報の果たす役割が大きいことが書かれています。現在、米大統領選挙戦の渦中であり、トランプ大統領が再選するのかに注目が集まっていますが、この本ではトランプ大統領がソーシャルメディア時代に自分たち(選挙民)を体現した存在であったことが述べられています。どちらが勝つかにせよ、ソーシャルメディアの活用は割けて通れないと思いました。

公開情報の力

現代は、国家による機密情報の分析よりもむしろ、公開情報を収集して事実を分析するOSINTによって、CIAやKGB、モサドにも匹敵する諜報活動が行えるというくだりも興味深かったです。マレーシア航空撃墜事件では、一般人がインターネット上の情報を丹念に収集・照合・分析することで、ロシアによる犯行であるとの十分な証拠を得たというものです。現代では国家による秘密というのは保持することは難しく、公開されている情報であっても大きな力を持つという好例だと思いました。

プラットフォーマーの社会的義務・倫理

著者は最後に、Facebookなどのソーシャルメディアは、中立的な傍観者であってはいけないと力説しています。自分たちは単にソーシャルメディアを提供しているプラットフォームなのではなく、ごまかしや偽りの情報を選別し、取り除く義務があると。多くの人々にソーシャルメディアが必要不可欠になっている今、私的企業とはいえプラットフォーム側にも道義的責任があるという主張には大きく賛同しました。

2人の共著による5年間の集大成ということでしたが、非常によく情報がまとめられた、読み応えのある本でした。