読書感想記「エアビーアンドビー ストーリー」

沿って | 2020年7月25日

先日、Uberの本を読んだところですが、よく対比されて語られるエアビーアンドビーについて知りたくて図書館の本棚を探したところ、この本がありました。若干古い本で、現在の同社はもっと進んだ存在になっています。それでも、住宅の貸し手(ホスト)と借り手(ゲスト)を結び付けて、住宅をシェアするという、奇抜なアイデアのスタートアップが興味深く書かれています。

異なる強みを持つ、3人の起業家

エアビーアンドビーは、美術大学出身の2人と、そのルームメイトだった1人の天才プログラマーが共同創業者になっています。この組み合わせは独特のものだと思いました。普通、企業のスタートアップと言えば、MBA取得者や工学博士なんかを連想するのですが、そうではなく、変わった経歴を持つ3人が、お互いの強みを生かしているのです。特に美術大学出身の2人は、一緒にいると新しいアイデアがどんどん生まれてくるというぐらい相性も良かったようです。会社の規模が急成長する中でとにかく働き続けて、本人曰く「崖から飛び降りながら飛行機を組み立てる」ように、様々なことを乗り越えていきます。そのあたりのくだりは、映画のようなコミカルさがあり、読みごたえがありました。

創業時の3人の熱意はたいしたものでしたが、自分の住居を知らない他人に貸すというアイデアがなかなか受け入れられず、投資家からは冷たくあしらわれる日々でした。中には、プレゼンの途中に一方的に席を立たれてしまったこともありました。それでも、先見の明のあった投資家が投資をしてくれたのですが、その投資家が言った言葉で心に残ったのが次の2つでした。

  • 「なんとなく好きになってくれる」100万人より、「熱烈に愛してくれる」100人の方がはるかにいいこと。
  • いかにも優秀なヤツではなく、一番熱心な人が誰よりも成功すること。

普通なら、よくある助言のように思いますが、実際にエアビーアンドビーの成功には、確かにこの原則がありました。

エアビーアンドビーに立ちはだかる障害

後半は、人種差別やゲストに部屋をめちゃくちゃにされてしまったといった重大な問題への対処や、規制当局などの政治闘争について書かれています。また、既存のホテル業界がエアビーアンドビーを無視できなくなったことにも触れられています。このあたりは、新しい価値観を生み出した企業が必ず通る困難な道でもあるでしょう。これらの問題への対処策として、大きな問題への決断はコンセンサスで行ってはいけないこと、迷った時は企業の核となる価値観に立ち戻ることの重要性が述べられていて、心に響きました。

エアビーアンドビーが成功したのは「人と人とが触れ合って、人生を変える経験をさせてくれるプラットフォームを作ったからだ」という意見が紹介されていました。これまでと違う価値観を提案してくれるプラットフォームが巨大になるのは、GAFAとも通じるものがあると思います。とはいえ、私自身はこの本を読んでも、エアビーアンドビーをホストとしてもゲストとしても利用しようとは思わなかったのですが…(笑)

翻訳もこなれており、よく取材された良い本でした。