読書感想記「イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」

沿って | 2020年8月30日

この本は、2020年の今となれば、経営学における古典ともいえる本で、若干の事例の古さも感じるのですが、それでも目からうろこが落ちるような、知的感動を覚える本です。現在勉強している経済学や政治学のほか、経営学にも興味があり、本を読みました。

イノベーションに失敗してしまうのは何故か?

この本では、合理的な考えを持つ優秀な経営者が、その合理的な意思決定ゆえに、破壊的イノベーションに対応できず、市場での地位を失うという衝撃的な理論が展開されています。特に、破壊的イノベーションにおいては、市場の顧客が正しい判断を歪めることが書かれています。顧客の意見に耳を傾けるのは、企業の基本だと思っていましたが、必ずしもそれが正しいのではなく、むしろ害になるということです。

通常、市場構造を作り変えてしまうような破壊的技術というのは、全く新しい技術を連想しますが、そうではないようです。単純、低価格な技術で、新しい市場を生み出し、受け入れられるものということです。破壊的技術が市場で必要とされる性能を超えてくると、上位市場にいる既存の企業は、下位市場からの攻撃を受けることになります。上位市場から下位市場への移行は極めて難しく、下位市場から発生した企業が市場を席巻します。

この本では、いくつかの企業の事例をもとに、その法則が普遍的であることを証明します。盛者必衰の理ではないですが、市場を専有している企業が破壊的イノベーションには対応できないことが、よくわかります。

経営者の合理的判断があるがゆえに、破壊的イノベーションに対応できず失敗するのであれば、どうしようもないのではないかと思いますが、それでも著者は解決方法を書いています。すなわち、リスクを受容でき、成長が確実にできるような小規模な子会社を立ち上げるか、買収する方法です。

イノベーションへの対応がうまくいかないのは、一般的にまずい経営、無能力等の、経営陣の能力不足によるものと思われがちです。でもそうではなく、有能な経営陣が顧客の声を真摯に聞いたために失敗するという結論は衝撃的でした。

著者は大変に優秀な方で、ハーバード大学博士課程をわずか2年で卒業したそうですが、その鋭い理論と、実証的な研究で、非常に示唆に富んだ本でした。

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