読書感想記「ディズニーCEOが実践する10の原則 」

沿って | 2020年9月19日

ディズニーCEOの自伝

本屋で別の本を買ったところ、新刊のコーナーにこの本がありました。私は現在、動画配信サービスのDisney+を登録していますが、その中で一番感銘を受けたのは、アナと雪の女王でもなく、トイ・ストーリーでもなく、ディズニーのスタッフであるキャストやプロデューサーなどの制作現場の人々が、どれだけ心血を注いでディズニーを作り上げているかについて語られたドキュメンタリー番組でした。ディズニーの神髄は細部までこだわりぬく仕事への情熱と、人材の素晴らしさにあると思いました。その中に、この本の著者であるボブ(本名はロバート)・アイガーも特集されていました。そこでは、スタッフとの懇談を積極的に行い、CEOとしてビジョンを持って経営に臨む姿が印象的でした。

ボブ・アイガーのCEOとしての手腕は世界に広く知られており、ピクサーやマーベル、ルーカスフィルム(スターウォーズ・シリーズで有名)、20世紀スタジオなどを成功裏に買収したことでも知られていましたが、ディズニーの世界(魔法の世界でなく、舞台裏の制作陣)に大変興味を惹かれていた私は、この自伝にも興味を持ち、ボブ・アイガーの経営的な視点と、ディズニーを経営することの意味を知りたく、お小遣いで本を買うことにしました。

たたき上げからの成功

著者のボブ・アイガーは、一流大学を出て、一流大学のMBAを取得したエリートではありません。そうではなく、有名でもない大学を卒業した後、ABCの下っ端として入社し、大変な苦労をしながら最終的にはディズニーのCEOとなったたたき上げの人なのです。その成功の秘訣はたくさんありますが、一番大切なことは、つまらないプライドを持たずに恐れずに間違いを認め、相手を認める謙虚さにあると思いました。また、部下として管理職の下に付いていたときも、謙虚な姿勢で、その管理職の良いところを見出そうとする姿勢が印象に残りました。だからこそ、より上級の職務に引き上げてくれる機会を得たのだと思います(この本だけ読むと、著者の昇進スピードがすさまじく早いです)。

それにしても、上司との人間関係が悪くなって、ひいてはチーム全体の士気も落ちていくというのは、米国も日本も大して変わらないのだなぁと思いました。米国はもう少し人間関係にドライな印象がありましたが、この本でも、著者やその周囲の人々が職場の人間関係に苦慮し、経営にも大きな影響が出ている姿がたびたび出ていて、人間くさいドラマがあります。

三大買収の成り行き

この本で最も興味深かったのは、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムの三社を立て続けに買収する顛末が書かれているところでした。今となっては、いずれの買収もシナジー効果を高め、ディズニーも相手方企業もともに大きく業績を伸ばす優良な買収であったことがわかります。ですが、買収当時は相当のハイリスクで、取締役会からも難色を示されていたようです。

とりわけ、あのスティーブ・ジョブズがCEOを務めていたピクサーの買収は、前任のCEOとジョブズ氏の関係が相当に悪化した中で行われ、その費用対効果も疑問視されていました。そんな中で、気難しいジョブズと良好な関係を構築できたのは、謙虚さと相手に十分な敬意を払い、きちんと約束を守ることであったといいます。著者も述べていますが、このような大型の決定は結局のところトップ同士が行う個人的なものであり、だからこそ人間関係が重要であるとのことです。ボブ・アイガーの経営手腕も素晴らしいですが、この人間性こそが、成功を収めた一番の要因であったように思います。その他の二社についても、カリスマ的な経営者がおり、誠実に正直に話すこと、相手に敬意を持って接することを貫いた結果、無事買収を成功させました。

読後感

この本は、翻訳もよくできています。何よりも著者の誠実な姿勢がテンポよく語られており、非常に読みやすかったです。意思決定の重大さは私の仕事と比べるべくもありませんが、日々の仕事をする時にも念頭に置いておきたい経営原則が語られています。お小遣いで所沢のせんべろ1回分行けなくなりましたが、それ以上の価値があった素晴らしい本でした。