読書感想記「宿命の子」

沿って | 2020年9月26日

こだわりの本屋

皆さんは、東京都江戸川区篠崎にある、「読書のすすめ」という本屋は御存じでしょうか。小さな個人経営の本屋なのですが、巷で人気の書籍や新刊本を販売するのではなく、店主がこだわりの本だけを並べた、一風変わった本屋です。音楽や読書って、今まで自分が関心を持たなかった分野は、手に取って見てみるということがなかなかないのです。そんな時に、おすすめを提示してくれる店というのは、貴重な存在です。所沢から首都高に、車に乗って行ってきました。今回の本は、この「読書のすすめ」で見つけて買ってきたものです。

笹川良一とは

これは、日本船舶振興会(現日本財団)を創設した笹川良一氏の息子たち、とりわけ、日本財団の活動の中心的人物である笹川陽平氏について書かれた本です。私も子どものころに、良一氏と子どもたちが「一日一善」と言う日本船舶振興会のテレビCMはよく見ていたのですが、組織の内情はこの本を読むまでよく知りませんでした。

良一氏は、「右翼のドン」「戦後最後のフィクサー」などと呼ばれながら、モーターボート競争法の成立に尽力し莫大な収益金を得たことから、マスコミからも随分と叩かれていたようです。しかしながら、実際にはカネに非常にクリーンで、筋の通った考え方をしていました。また世界のハンセン病患者の救済を行うなど、人道支援に尽力していたことがわかります。マスコミの取り上げる一面だけをもって、判断することの危険さがわかります。

笹川陽平とは

陽平氏は、良一氏の三男で、正妻の子どもではありません。また、良一氏が父親としては失格ともいえるほど実の子どもたちには厳しかったことが語られています。そのような複雑な境遇ながら、良一氏の手腕に心酔、敬服し、日本船舶振興会の幹部となっていきます。良一氏の功績を受け継いでいくのだという使命を完遂しようと、まるで修行僧のように自らを厳しく律し、同様に人道支援に心血を注いでいました。

見どころ

この本の最も面白いところは、日本船舶振興会の内紛、そして、良一氏の後を継ぐ二代目の曽野綾子氏を会長に据えてからの組織改革のところでした。特に、カネと影響力を欲しがる良一氏の取り巻きと陽平氏との対立は生々しく、世襲批判を浴びせるマスコミと運輸省、取り巻きの幹部の思惑が入り乱れて、大変なお家騒動だったようです。良一氏も陽平氏も、曽野綾子氏も無給で会長職を引き受け、金銭的には潔白ではあったのですが、そのこと自体も批判の対象となっていたようで、理不尽な扱いを受けていたことが記されています。

日本財団のことは知っていましたが、その沿革や設立者の笹川一族については無知で何も知りませんでした。分厚い本ですが、読みやすく、読んで良かった本でした。